2007.09.08
MH小説『炎の山の狩人たち』vol.43

押してくだちい
Chapter7-2『降ちの砂』
砂漠の月は、蒼く映えて美しい。
日が傾き、そして茜色の空が黒に飲み込まれるのを待って、ジンたちはベースキャンプに向かった。
夜、といっても砂漠には月明かりが一晩中淡く輝いていた。
ベースキャンプからも見ることの出来るその月は、星しか映らない闇空に浮かんでいた。
ジンはもう一度、小さく折りたたんだクエストカードを広げる。
それをレオンが横から覗き込んできた。
「確かに、ランク3では少し難易度の高い、かといって4では苦戦しない程度、そんなクエストですね。」
「あぁ、俺もそう思う。だからこれは、俺たちがいかにレイとドロシーを危険に晒さず・・・」
ジンが言うことを、否、レオンはたいていの者の言わんとすることを代弁するように続ける。
「気をつける必要がありそうですね。」
「そうだな・・・・。」
ジンは月の浮かぶ空を見てから、その目を談笑するレイとドロシーに運んだ。
「まぁ、いつも通りやれば大丈夫だとは思いますよ。お二方、エルザさんともパーティを組んでいるそうですし。」
砂漠は、昼夜の気温差が大きい。
一般的に昼間に地面が熱せられ暖かく、夜はその熱が上空に逃げ冷える、と言う理論は有名だ。
それが砂漠では、他の地域とhが比べ物にならないほどの気温差をもって起こる。
ジンが夜間にクエストを行おうと提案したのには、それがあったからだ。
真夏の、乾季が訪れた砂漠では、昼間は気温40度をはるかに超える。
雲さえ無く透き通る空の下でのクエストは、モンスターと相対しなくとも確実に体力を失う。
そして夜は、昼とは真逆の寒さになる。
暑さで誰か一人でも倒れれば、その分他のメンバーにも危険が多くなる。
それよりも、寒さで手がかじかむことを選んだのだ。
「ふぅ・・・寒いな。」
白い息が風であっという間に流されていった。
手をこすり合わせ、ベースキャンプに据えられた支給品ボックスから『ホットドリンク』の赤い瓶を取り出す。
「持ち合わせと支給品で、今回は十分足りそうだな。」
ジンはレイ、レオン、ドロシーに支給品を手渡しながら呟いた。
「黒いディアブロスだよね?ウチ大丈夫かな・・・」
「大丈夫だって!レオン君がいるからサクッと、ね~?レオン君!」
レイにそう言われ、レオンは笑いながらも少し困った表情をした。
「2頭同時だから、1頭ずつ相手にすれば大丈夫だ。1頭ずつだとたいしたことはない。」
ジンはそう言って立ち上がり、赤い瓶の中身を飲み干す。
次第に指先まで温かくなり、砂漠の夜だということさえ忘れそうになった。
砂漠に出ると、月がいっそう大きくなった。
いくつもの星の中に、稀に流れ星が瞬く。
地面に厚く敷き詰められた砂がひんやりと冷たい。
しかしそんなことを気にしている暇など、4人には無かった。
「いましたね・・・」
レオンはポーチから双眼鏡を取り出す。ガンランスがガシャリと鳴った。
黒い背甲に、真紅の瞳。しかし、まだその瞳には4人は映っていない。
砂煙にその姿が消えていくのを見るなり、レオンは目から双眼鏡を外した。
小さな影が、砂の中から現れるのが見える。それがこちらに振り向いたのも分かった。
砂に伝わる微かな振動、4人の足からの僅かな振動がディアブロスに気づかれたらしい。
「来ますよ・・・!!!」
レオンが叫んだ。と同時に砂が盛り上がり、流れながら4人のほうに向かってくる。
ジンは他の3人を促し、回避の体勢をとる。というのも、角竜の奇襲は安易には避けれないからだった。
そんな中、レオン1人だけがポーチの中を探っている。
取り出した黄色い瓶の中身を一気に喉に流し込むと、レオンはガンランスと堅く構えた。
レオンの目に、微かな月明かりが映った。
皆が走り、跳び、黒角竜の奇襲をかわす。
ただ一点、レオンに標的を定めた黒角竜は、レオンの足元を突き上げる。
少し下に向けたガンランスの盾が、適格にそれを受ける。
歯を食いしばるレオンの顔の前に火花が散ったが、ガンランスの盾も、勿論黒角竜の角も全く傷つきはしなかった。
一瞬、レオンの体は宙に浮いたように見えたが、2、3歩後ろに下がりながら踏ん張る。
前転から膝をついて立ち上がったジンは、立ち上がりざまに太刀を抜きながらレオンを見た。
奇襲から無防備になった黒角竜の顔面に、一突き。目をめがけてまた一突き。
「やるじゃないか・・・・・・」
ジンは小さく笑みを漏らし、独り言を呟く。
そして、攻撃を続けるレオンを見て驚いた。
確実に細くなっている。腕、胴体。
顔はさほど変わっていないため気づかなかったが、前ジンと会った時より痩せているのだ。
スタミナの要るランス系武器を使うハンターは、割と痩せた者が多いのだが・・・
しかし、それに反して攻撃の鋭さは以前にも増しているようだった。
レオンが振るうガンランスは、雪獅子の毛を束ねた『ヘルスティンガー』系の物だった。
決して鋭利な武器とは言えない。
どちらかといえば凍りついた毛を相手に突きつけて相手をも凍てつかせる、という感じだ。
レオンの腕から出される突きは、黒角竜の甲殻を貫いているようだった。
「レオン君かっこいい―――!!」
レイが蔓延の笑みを浮かべ、弓を持った手を振った。
額に汗を浮かべ、レオンはレイのほうを見、それからジンのほうへと目配せした。
その目は早く援護しろ、と訴えているようで、やっとジンも黒角竜に向かって走り出した。
Chapter7-3『安楽と悲愴のダーク』にコンティニューーー
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